大面積ウィンドウレスEDS検出器を用いた高加速電圧下での重元素定量分析
背景
ウィンドウレス型エネルギー分散型分光法(EDS)検出器は、高感度で低エネルギーのX線を検出できるため、ホウ素、窒素、酸素などの軽元素の分析に適していることで知られている。しかし、市販されている多くの機種は、高加速電圧での定量分析が困難なため、重元素の濃度を正確に測定することができず、汎用的なEDS検出器としては使用できない。
重元素のスタンダードレス定量分析では、走査型電子顕微鏡(SEM)を高加速電圧(通常20 kV以上)で動作させる必要がある。そのため、(高エネルギーの)後方散乱電子がX線センサーに到達するのを防ぐエレクトロントラップ(電子によるX線信号の汚染を防ぐ)と、バルク試料におけるX線の発生と吸収を補正できる分析モデルが必要である。

試料と測定方法
多くのウィンドウレスEDS検出器では、10 kVを超える加速電圧での元素の定量分析が見送られている。これは、検出の立体角を最大化するために試料までの距離を短くする必要がある大面積検出器に適したエレクトロントラップの設計が複雑なためである。しかし、電子エネルギー損失分光器(EELS)の数十年にわたる開発で確立されたガタンの電子光学の専門知識を活用し、EDAX® Octane Elite Ultra EDSシステム用に、すべてのSEM加速電圧で160 mm2のウィンドウレス検出器を動作させ、X線を検出するための優れた立体角を維持できる新しいエレクトロントラップを開発した。この新しいエレクトロントラップの性能は、後方散乱電子信号が最大となる30 kVの加速電圧にて、ビスマス試料(原子番号 81)を測定することで、他のEDS検出器と比較した。既存の従来型(ウィンドウ有)検出器と比較して、EDAX Octane Elite Ultraは、15 keVを超えるエネルギー域のEDSスペクトルにおいて最もバックグラウンドが低い結果となった(表1)。EDAX Octane Elite Ultraの電子線トラップは、X線検出の立体角が6倍以上大きいにもかかわらず、標準モデルを上回る性能を示した。
| Model | モデル | ウィンドウ | Bi Lα:バックグラウンド強度*の比率 |
| 標準的なEDS検出器 | ウィンドウ有 | 中 | 238 |
| その他のEDS検出器 | ウィンドウレス | 大 | N/A |
| EDAX Octane Elite Ultra | ウィンドウレス | 特大 | 400 |
軽元素と重元素を含む試料を高加速電圧で正確にスタンダードレス定量分析することは、特に困難である。スタンダードレス定量分析では、加速電圧と試料組成の関数としてのX線励起、吸収、二次蛍光励起プロセスの変化を考慮するためにマトリクス補正係数を使用する(例えば、EDAXのeZAF補正)。原子番号Zの差が大きい元素を含む試料では、マトリクス補正、特に吸収補正(質量吸収係数(MAC))が非常に大きくなることがある。一般的に、MACは吸収されるX線のエネルギーが小さくなるほど大きくなるため、原子番号が小さい元素の補正は大きく、原子番号が大きい元素の補正は小さくなる。さらに、原子番号が大きい元素は吸収が強い傾向があるため、原子番号が大きい元素を含むマトリクスでは原子番号が小さい元素に対して大きな補正が必要となる。
このような状況下で定量分析を行う場合、測定されたネット強度、またはマトリクス補正と分析モデルのわずかな誤差が、定量結果に大きな偏差をもたらす。したがって、分析モデルが、1) Bremsstrahlungバックグラウンドと特性X線を正確に分離できること、2) 重なり合うピークを効果的に分離できること、3) X線エネルギーによる検出器効率の変化を補正できること、4) 試料と測定条件に対して正確なマトリクス補正ができることが重要である。
EDAX Octane Elite UltraとEDAX APEX™ EDS Advanced 3.0ソフトウェアを使用し、高加速電圧で組成既知(組成が保証されている)5つの試料の定量分析を行った。試料には、原子番号が50以上異なる2種類の元素が含まれていた。元素組成の測定には、eZAFマトリクス補正と計算されたBremsstrahlungバックグラウンドフィットを使用したスタンダードレス定量分析が用いられた(表2)。タングステンMαピークとシリコンKαピークが大きく重なるタングステンシリサイドを含むすべてのケースにおいて、測定結果は許容範囲内であり、算出された組成と保証組成の間の平均絶対偏差はわずか2.1%であった。
| 試料 | 元素 | 保証された定量値 (wt.) | 算出された定量値 (wt.) | 絶対誤差 (wt.) | |||
1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | ||
| Lead fluoride | Pb | F | 84.95% | 15.05% | 86.4% | 13.6% | 1.4% |
| Tungsten silicide | W | Si | 77.9% | 22.1% | 74.4% | 25.6% | 3.5% |
| Europium (III) oxide | Eu | O | 81.1% | 18.9% | 84.5% | 15.5% | 3.4% |
| Erbium fluoride | Er | F | 74.1% | 25.9% | 73.6% | 26.4% | 0.4% |
| Ytterbium fluoride | Yb | F | 75.2% | 24.8% | 76.8% | 23.2% | 1.6% |
まとめ
EDAX Octane Elite Ultraは、高加速電圧で重金属化合物の組成を高精度で測定するために使用可能である。新設計のエレクトロントラップを活用したEDAX Octane Elite Ultraは、重元素の定量分析に適していることが示されており、大面積ウィンドウレスEDS検出器が得意とする高感度と低エネルギーX線の検出能力に加えて、ルーチン的な微小部分析に適した初の大面積ウィンドウレスEDS検出器である。