EDS定量結果の精度を向上させる方法:検出効率とeZAF SCCデータベース
はじめに
定量分析の定義は、元素の特性X線を重量分率に変換し、元素の濃度を示すことです。元素のX線強度は、測定データのスペクトルから抽出する必要があります。純粋な信号を得るためには、いくつかの処理や事前評価が必要です。例えば、検出器のアーティファクトを補正したり、バックグラウンド(主に制動放射)を決定したり、必要に応じて、X線検出器のエネルギー分解能では単独で測定データを得ることができない場合に、重複ピークから各元素の強度データをピーク分離することも必要です(ピークデコンボリューション)。最新のアルゴリズムを搭載したEDAX® ソフトウェアは、スペクトルから抽出された純元素強度を正確に決定するために、スペクトル処理の全ての機能を備えています。
結果と考察
通常使用される信号は:
- スタンダードレス定量分析用X線ネット強度 (制動放射バックグラウンドが除去されている)
- スタンダードレス定量分析用P/B比(X線ネット強度を同エネルギー幅の制動放射バックグラウンド強度で割った値)
- スタンダード定量分析用Kレシオ(未知試料のX線ネット強度を、1つまたは複数の既知濃度の標準試料から得られたX線ネット強度で割った値)
測定された元素強度は、定量アルゴリズム用のデータとなります。まず、電子顕微鏡の加速電圧によって決まる励起(一次電子エネルギー)に依存します。これが元素の濃度に依存するX線の発生であり、これが分析の基本です。
は対象となる元素の原子番号
は定量で使用される元素のエネルギー
は元素濃度
は組成中の他のすべての元素を表し、その濃度に応じて影響を与えます。
また、励起されたX線が試料中で自己吸収されたり()、X線がさらに蛍光励起されたり()、試料中の他の元素や組成全体にも依存します。そのため、測定された信号は、吸収と蛍光という異なる物理的効果に関して補正する必要があります。このプロセスは「マトリクス補正」と呼ばれ、マトリクス元素 ()の構成に依存します。定量アルゴリズム(Quant)は、他のすべての元素の組成に関する情報が判明していないため、繰り返し計算する必要があります。
重要な効果は励起と吸収です。蛍光励起は、一次電子によって励起されたX線による増強効果です。これは、低濃度の元素や、組成中の主要元素の特殊な組み合わせで重要になることがあります。しかし、通常はマイナーな効果であり、特殊なケースで濃度が微量の場合にのみ影響します。そのため、ここでは一般的な定量精度向上というテーマでは議論されません。
ある試料の元素強度が他の試料に比べて2倍であれば、その元素の濃度も2倍であると考えるのが基本的な考え方です。これは、ある加速電圧におけるX線の発生量についてはほぼ合っています。しかし、残念ながら、ノンリニアな分析方法である走査型電子顕微鏡(SEM)のエネルギー分散型X線分析(EDS)では、このことがほとんどの場合当てはまりません。発生したX線が試料に吸収されると、測定結果に影響が出ます。この影響が大きい場合には、質量吸収係数(MAC)が跳ね上がり、試料中の吸収現象の特性を決定するため、さらに不確実性が高くなります。特に、X線のエネルギーが試料の組成に含まれる元素の電子殻エネルギー(ジャンプ)に近い場合、不確実性が高くなります。図1にその一例を示します。Al/Si化合物の二元系のシミュレーション例では、Siの放射線はAlの吸収効果が高いためにノンリニアな挙動を示します。しかし、SiとのP/B比を使用するPeBaZAFでは、かなりリニアになります。

Figure 1. Measured x-ray net-counts vs. P/B values with a calculated Al/Si binary sample (Al blue; Si red). The x-axis shows the element concentrations of Si or Al, and the y-axis depicts the P/B and net-counts arbitrary units.
P/B比は、定量の問題をリニア化するようなものです。しかし、この問題は、実際に測定されたスペクトルから補間されるP/B測定値の決定に一部委ねられていることに言及する必要があります。これは、同じエネルギーの純粋な連続X線の測定カウントは、特性X線がある同じエネルギーでは直接測定できないからです。高いカウントレートを測定する最新のシリコンドリフト検出器(SDD)では、P/B信号の統計的な限界はもはやありません[1]。むしろ、P/B比に関連して分割された制動放射線バックグランドを決定する際の体系的な誤差が限界となります。しかし、P/B値の決定に伴う不確実性は、X線ネット強度の測定に伴う吸収効果ほど高くはありません。
図2は、Alを多く含む試料におけるSi-K放射線の実質的な吸収効果を示しています。この効果は、制動放射線の計算された吸収ジャンプが見られるだけでなく、両元素が試料中で同じ濃度であるにもかかわらず、両元素のピーク高さ(ネット強度)が大きく異なっています。

Figure 2. A simulated spectrum example with 50% mass fraction of both elements (often named weight%) at 20 kV excitation, evaluated with the EDAX advanced spectra evaluation software tool.
定量分析では、測定されたネット強度ではなく試料から発生したX線を扱います。
つまり、最初の作業は、検出器の効率に関連する必要な知識を用いて、真の発生したX線を計算することです。しかし、これは必ずしも必要なことではありません。FSQ(完全スタンダード定量)による標準比較測定では、未知の元素ごとに、同じ検出器とジオメトリーで標準試料を測定した場合、効率は相殺されます。また、スタンダードレスのP/Bベースの定量法による分析結果にも影響はありません。しかし、PeBaZAFは1keV以上のエネルギーのP/Bベースの定量にのみ対応しているため、ネット強度を使用する元素番号Z < 11未満の元素の場合は、検出効率を考慮する必要があります。
したがって、PeBaZAFスタンダードレス定量法は、経験的に測定されたデータベースを追加で使用しなくても、約±10%の相対誤差(標準偏差5%)を達成しています [1,2]。これは、定量の問題が部分的にリニア化されており、Z≥11の元素が、次に述べる不確実性のポイントである検出器効率の影響を受けないためです。
検出効率は非常に複雑で敏感であり、検出効率に依存しない方法(同じシステムで標準試料を測定するFSQの場合や、すべての元素が元素番号Z≥11のPeBaZAFの場合など)を使用しないかぎり、すべての分析結果に影響を与えます。検出器や検出器ウィンドウの特性には不確かさがあり、個々の検出器には製造上の理由、電子顕微鏡のジオメトリー、経年変化、検出器ウィンドウのコンタミなどによる不確かさが残ります。
標準試料ライブラリを作成し、標準データを再測定することなく他の測定システムで使用する必要がある場合、特にeZAFスタンダードレス定量やFSQでは、検出効率に関する知識が必要となります。
このため、検出効率の補正係数(ECF)を経験的に決定して使用することができます。これにより、使用する検出器の実際の特性を考慮した効率補正を行うことができます。[3]

Figure 3. a) Efficiency curve of older EDAX detectors (the pink line is window transmission; the green line is complete detector efficiency) with diamonds representing the true used efficiency by Quant, which can differ from theory and Synchrotron measured values by using ECFs. The example shows Quant internally applied ECFs to address a divergence effect by Moxtek windows lamella [3]. b) Originally calculated efficiency (curve) corrected by ECF values.
さらに、X線の励起には、定量モデルや基礎的な原子データにすでに不確実性があります。それは、一次電子のエネルギーが励起元素の殻のエネルギーに近いほど不確実性が高くなります。私たちは、eZAF standardless用の経験的なデータベースであるStandards Customized Coefficients (SCC)を導入し、与えられた条件でモデルとパラメータを最適化しました。
測定されたX線に対する検出器の影響(ECFで補正可能)は、試料内部で励起されたX線(SCC)から切り離す必要があります。ECF効率の補正値は、eZAF、またはPeBaZAF(Z < 11)のモデルから独立している必要があります。SCCはX線励起物理量を直接補正します。SCC係数を適用することで、電子励起エネルギーの広い範囲で、特定の元素のX線収率の一般的な偏差を補正することが可能になります[4]。しかし、SCC値を経験的に測定して、標準的な結果の偏差を補正するようなアプリケーションのために、eZAFを改善することも可能です。しかし、これは単なる要因に過ぎないため、図1に示すような元素間の相互依存関係によるノンリニアには対応できません。しかし、「カスタマイズされたスタンダードレス」に従うことは、限定されたアプリケーションや専用の試料組成範囲には非常に有効です。既知濃度の試料を用いて専用のSCCデータセットを作成することができ、この経験的データセットに専用の名前を付けて保存することができます。作成されたデータセットは、同様のサンプルを再度測定すれば、いつでもスタンダードレスeZAFに使用することができます。
Figure 4. Efficiency curve of more recent EDAX detectors (the pink line is window transmission; the green line is complete detector efficiency) with diamonds representing the true used efficiency by Quant. The theory and Synchrotron measured values are the same, and no divergence effect is visible with the new C2 type window grids.
評価やSCCの決定には、100%ノーマライズ無しのeZAF定量結果を使用する必要があります。ノーマライズすると、どこから乖離が生じているのかを検出するのが難しくなります。Al/Siの例では、困難な元素はAlではなくSiです。100%ノーマライズした場合、eZAFの結果が継続的にモニターされているかどうかは判断できません。
また、Alの定量値が間違っているのは、ノーマライズの影響でSiの定量値が間違っているためです。Siの誤差が小さくなれば、それらは実際の偏差では検出できないでしょう。ノーマライズ無しのeZAF定量結果を得るためには、純元素の試料を用いた「リファレンス測定」が必要です。つまり、この方法でビーム電流や検出器の立体角を調整することで、eZAFの未知の絶対関係を取得して絶対定量値を計算することを意味します。ルーチン分析では、悪い分析結果を特定し、分析結果の間違いを見つけるために、eZAFをノーマライズ無しで適用できます。濃度の合計値によって、分析結果が妥当性を失うことで、精度を判断することができます。この場合、新規でリファレンス測定を行う必要があります。すべてがOKであれば、ノーマライズされた結果をレポートや最終的な分析評価に使用することができます。リファレンス値は、測定の絶対的な調整であり、eZAFの中核となる分析パラメータです。スペクトルごとに保存され、加速電圧、収集ライブタイム、カウントレートと同様に重要です。「リファレンス測定」は、eZAF定量結果を向上させ、絶対値を得るための鍵となります。
元素の線種による単純なSCC係数では、大きな組成の違いに対するノンリニア効果に対処することは不可能です。SCCベースの定量補正を行った次の例は、その限界を示しています。結果が改善されるのは、試料の種類と特定の濃度・組成に限られます。
図5aは、Si含有量を超えるAlとSiのeZAFの定量計算結果(ノーマライズ無)を示しています。薄赤色の太い線は、比較のためにオリジナルの測定効果(ネット強度)を示しています。これにより、eZAFの補正アルゴリズムはすでに素晴らしい働きをしていることが分かります。しかし、特にSi濃度が低い場合、Siの特性X線が試料中のAlに大きく吸収されてしまうと、またずれが生じます。
Si の結果の偏差は、濃度 30% までの Si 組成に対して、まだ 20% 以上あります。図5bは同じ状況を示していますが、SiのSCC係数は濃度10%のSiスペクトルを用いて決定されています。Si の相対的な偏差は、Si 濃度が 30% になるまで、すべての定量結果に対して 10% 未満になりました。この場合の問題点は、Si 濃度が高いと相対的に偏差が 30% を超えることです。作成された経験的なデータベース(この例では、Si-KのSCC係数は1つだけ)は、一般的に使用することはできませんが、低いSi濃度のAl/Siサンプルで使用することができます。この特別なデータベースに「高濃度Al中のSi」という名前を付けて保存しておけば、同じような試料や用途にすぐに使うことができます。しかし、繰り返しになりますが、経験的にeZAF精度を向上させるために一般的に使用することはお勧めできません。Siが高濃度で、Alが試料に含まれていない場合、Siに関する他のすべての分析結果が破壊されてしまいます。この例では、純Siの定量結果は130%以上に上昇しています。確かに、この結果をノーマライズすると、Al濃度が最小と判断された場合には100%になります。

Figure 5. a) Calculated concentration results by eZAF for binary Al/Si example specimen (blue Al; red Si) over the Si nominal concentration, all in % units. The broad light-red line is the Si net-count raw data curve from Figure 1, arbitrary units, not yet ZAF corrected. b) The same sample but with low Si concentrations using SCC.
しかし、他のほとんどすべてのノーマライズされたケースでは、元素の原子殻励起関係が互いにバランスを失ってしまうため、問題となります。したがって、eZAFの結果を常にノーマライズしてはいけません。純元素の試料の結果は破損し、ノーマライズ無しの状態でしか見ることができないことに注意してください。
まとめ
SCCデータベースは、eZAFを使用して試料物理学の励起部分を調整するために使用されます。標準試料の無いノーマライズされていない計算オプションを支援するために必要でした。1つの純元素試料を使用したリファレンス測定が必要です。条件が変更された場合(たとえば、ビーム電流が変更され、正確な測定制御下にない場合)にのみ繰り返し測定する必要があります。
- 元素のX線励起状態を相互に補正/調整します(殻励起とX線放出確率のクロスセクション)
- 使用する加速電圧(主に電子エネルギー)の広い範囲で同様の結果が得られる
- 結果を改善するために、「カスタマイズされたスタンダードレス」は、専用のアプリケーション(例えば、定義された試料および/または組成のタイプに対して)に使用することができます。これは、同じ元素の濃度が全く異なる場合や、マトリクスの組成が全く異なる場合に、定量分析で精度が悪くなるように計算を変更することができるからです。
ソフトウェアのオペレーターと分析者は、SCCデータベースにアクセスすることができます。「カスタマイズされたスタンダードレス」によるeZAF定量結果の改善は、アプリケーションソフトウェアで実現できます。さらに、将来的には汎用的なデータベースが利用可能になる予定です。
これは、eZAFに焦点を絞った精度の向上を達成するための最初のステップです(図6)。
![The goal of improving eZAF accuracy with empirical measurements and databases [1,2].](https://edge.sitecorecloud.io/ametekinc1236b-ametekb19a-productiondcfa-1d17/media/Project/Ametek/gatan/Resources/Applications-Library/Application-Notes/Ways-to-Improve-the-EDS-Quantitative-SSC/WaysToImproveFig6_865x486.png)
Figure 6. The goal of improving eZAF accuracy with empirical measurements and databases [1,2].
参考文献
- Eggert F (2020) “Effect of the Silicon Drift Detector on EDAX Standardless Quant Methods” Microscopy Today 28/2 34-39
- EDAX-Insight (2019) “EDAX Standardless Quant Methods” 17/1 1-3
- Eggert F et al. (2021) “The Detector Efficiency Question with EDS” Microscopy and Microanalysis 27(S1) 1674-1676
- Rafaelson J, Eggert F, Kawabata M (2021) “EDS Quantification Using Fe L Peaks and Low Beam Energy” Microscopy and Microanalysis 27(S1) 1670-1672