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低照射電流におけるEBSD解析

はじめに

後方散乱電子回折法(EBSD)は金属、セラミックス、鉱物などの結晶材料の方位や微細構造の評価に広く用いられています。新しいEBSD検出器の開発に伴い、ビーム電流に敏感な試料でEBSD解析を行うことへの関心が高まっています。このような試料の例としては、有機太陽電池やバイオミネラルなどがありますが、これらの試料では、高エネルギーの電子ビームを照射すると結晶構造がすぐに破壊されてしまい、EBSD解析を行うことができません。 EDAX® Clarity™ EBSD検出器は、世界初の電子直接検出型EBSD検出器であり、低照射電流でEBSD測定を可能にすることで、このような種類の結晶材料の特性評価の可能性を広げます。

結果と考察

加速電圧と電子線量を最小限に抑えてEBSDデータ収集の限界に挑戦するためには、指数付け可能な回折パターンを生成するためにどのくらいの信号が必要かを知ることが重要です。回折信号の動的シミュレーションによると、1ピクセルあたり平均1個の電子しかないパターンでも、すでに指数付け可能なパターンを生成できることが示唆されています(図1)。

Simulated Si EBSD pattern with an average of one electron per pixel using only diffracted electrons.
図1.回折電子のみを用いて、1ピクセルあたり平均1個の電子を持つSi EBSDパターンをシミュレートしたもの

しかし、EBSDのパターン信号の大部分はバックグラウンドです。バックグラウンドとは、試料表面で散乱され、パターンのバンドに寄与することなく検出器に到達する電子のことです。バンドに含まれる電子とバックグラウンドに含まれる電子の比率によって、必要最小限の電子線量が決まります。BeとAuのEBSDパターン(図2)は、この違いを示しています。

 

このバンドは、Auパターンでは見やすく、バックグラウンド信号よりも約20%明るい。一方、Beパターンでは、バンドは非常に弱く、バックグラウンドのインテンシティコーンよりもほとんど明るくありません。これは、Beの場合、指標となるパターンを得るために、Auよりも高い電子線量が必要であることを意味しています。平均的な原子番号の材料のEBSDパターンは、これらの極端な例の中間のバンド:バックグラウンド比を示し、通常は約1:10です。バンドを見るためには、回折信号の1ピクセルあたり1個の電子があれば十分であることを考えると、EBSD検出器の平均電子線量が1ピクセルあたり10個であれば、インデックス可能であることがわかります(図3)。

Unprocessed Be (top) and Au (bottom) EBSD patterns with corresponding 3D intensity plots.
図2.未処理のBe(上)とAu(下)のEBSDパターンと、それに対応する3D強度プロット。
(left) EBSD pattern with average 10 electrons per pixel and (right) IPF map of 3D printed steel collected using 13 pA beam current.

Figure 3. (left) EBSD pattern with average 10 electrons per pixel and (right) IPF map of 3D printed steel collected using 13 pA beam current.

しかし、これは完全な結晶があり、信号損失がない場合にのみ有効です。実際には、ほとんどの試料において、1ピクセルあたり20~50個の電子線量で確実に指数付けができます。

 

観察されるEBSDパターンの全体的な強度は、バンド:バックグラウンド比に加えて、試料の後方散乱係数にも依存します。軽元素の試料では、EBSDパターンの強度が低くなるだけでなく、回折情報を伝える電子の割合が少なくなるため、電子ビームの照射時間が長くなります(図4)。

Simulated EBSD patterns and chart illustrating the different diffracted intensities and required exposure time to reach an average of 50 diffracted electrons per pixel using 100 pA beam current at different kV - assuming ideal crystal, surface, and detection efficiency.

Figure 4. Simulated EBSD patterns and chart illustrating the different diffracted intensities and required exposure time to reach an average of 50 diffracted electrons per pixel using 100 pA beam current at different kV – assuming ideal crystal, surface, and detection efficiency.

実験パターンの場合、必要な露光時間は加速電圧が低いほど明らかに増加しています(図5)。このグラフの曲線は、考慮すべき最終的な効果を示しています。20 kV以上のビームエネルギーでは露光時間は一定ですが、電子エネルギーが低下すると必要な露光時間が増加します。これは、加速電圧を下げると回折強度とEBSD検出器の効率が低下することによる複合的な効果です。

Experimentally determined exposure times for different materials at constant beam current.
図5.ビーム電流を一定にした場合の各試料の露光時間を実験的に求めたもの

上述の効果により、金属の分析に必要な最小電子線量の明確な制限が得られます。鉱物やセラミックは一般的に軽いので、もう少し信号が必要です。

 

バイオミネラルや有機物を含む結晶(太陽光発電用ペロブスカイトなど)は、別の複雑な要因があります。多くの場合、有機物は対象となる結晶の間に存在したり、結晶内に組み込まれたりしています。このような有機構造物は、高強度の電子線を照射すると分解してしまい、その結果、材料に損傷や汚染が生じて、EBSDによる相や方位の解析ができなくなることがあります。電子線の照射量を最小限に抑えることで、これらの影響を軽減することができます。

 

低照射電流のEBSD分析の関心は、主に2つのアプリケーションに向けられています。1. 水平方向の分解能を向上させるために、試料内の相互作用体積を最小化すること。2. ビームに敏感な材料の方位解析を可能にすること。以下の例では、Clarity EBSD検出器を使用しました。また、表面が粗い部分での指数付け性能を最大化するために、オフラインのEDAX NPAR™ 処理を適用しました。

 

図6のマップは、Atrina Pectinataの貝殻のカルサイトからアラゴナイトの真珠層への移行部の微細構造を示しています。軟体動物の貝殻、特にアラゴナイトの真珠層は、電子線に対する感度が高く、解析を成功させるためには低照射電流の条件が必要となります。

(left) EBSD Image Quality map showing the transition zone from columnar calcite (lower left) to planar aragonite nacre (top right). (right) The detailed Inverse Pole Figure map illustrates the grain microstructure directly at the calcite-aragonite contact.

Figure 6. (left) EBSD image quality map showing the transition zone from columnar calcite (lower left) to planar aragonite nacre (top right). (right) The detailed Inverse Pole Figure map illustrates the grain microstructure directly at the calcite-aragonite contact.

カルサイトとアラゴナイトの接触部には、同程度の大きさのアラゴナイト粒と相関しているように見えるカルサイトのサブグレインが存在する複雑な微細構造が見られます。アラゴナイト粒は、まずカルサイト結晶の縁に沿って形成され、次に合体して柱を完全に覆う多結晶体となります。最終的には、小さなアラゴナイト結晶が等角度の平面状のアラゴナイト結晶に覆われて、貝殻の内側を覆う滑らかな真珠層構造が形成されます。

 

カルサイトの柱の間にアラゴナイトが初めて現れる様子を、12 kV、250 pAの条件で詳細に可視化しました(図7)。

(left) Image Quality (IQ) map with (right) superimposed IPF map of aragonite platelets in between calcite pillars.

Figure 7. (left) Image quality (IQ) map with (right) superimposed IPF map of aragonite platelets in between calcite pillars.

また、さまざまなペロブスカイト材料の光電子特性を調べるためには、低照射電流におけるEBSD解析が必要です。図8は、無機のハロゲン化物ペロブスカイト(CsPbI3)の微細構造を示しています。このSEM像では、ガラス基板上に焼結された結晶粒のクラスターが、中心点から放射状の構造を示しています。EBSDを用いて、これらのクラスターが焼結前の元の結晶方位を反映した複数の方位を維持しているのか、あるいは焼結過程で完全な再結晶化が起こったのかを調べました。図8のIPFマップを見ると、ほとんどのクラスターが単色にしか見えないことから、完全な再結晶が行われたことが確認できます。

(left) SEM image and (right) IPF map of CsPbI3 halide perovskite collected using 15 kV and 300 pA electron beam. The larger grains are an orthorhombic phase; in between these grains, a small fraction of a cubic phase was observed. Sample courtesy of Dr. Julian Steele (KU Leuven, Belgium).

Figure 8. (left) SEM image and (right) IPF map of CsPbI3 halide perovskite collected using 15 kV and 300 pA electron beam. The larger grains are an orthorhombic phase; in between these grains, a small fraction of a cubic phase was observed. Sample courtesy of Dr. Julian Steele (KU Leuven, Belgium).

まとめ

低照射電流EBSDのビーム強度限界は、バックグラウンド信号に対する回折バンドの比率で定義されます。この比率は、後方散乱係数とともに増加します。鉄合金のような回折強度を持つ材料では、わずか10電子/ピクセルで指標となるEBSDパターンを得ることができます。軽元素試料の場合は、20~50電子が必要です。

 

EDAX Clarity 電子直接検出型EBSD検出器は、ビームに敏感な試料の解析を、材料へのダメージを最小限に抑える低照射ビーム条件で行うのに最適な検出器です。