像観察と回折図形の記録を最適化するClearViewカメラのフレームレート制御モード

フレームレート制御モードはClearView® カメラで新たに導入された機能であり、これまでのGatan社製シンチレータカメラでは使用することが出来ませんでした。フレームレート制御モードによって、ClearViewのユーザーは、特に低電子線照射条件下においてカメラのフレームレートを調整することでシグナル・ノイズ比を最大化することが出来ます。結果として、像や回折図形中の微弱で低コントラストの 部分を検出する能力が大幅に向上し高品質のデータが得られます。本アプリケーションノートでは、フレームレート制御モードの仕組みと、最高のクオリティのデータを得るためのフレームレート制御モードの活用方法について詳しく説明します。

CMOSカメラを用いた像の取得方法について

ClearViewのようなCMOSカメラは、そのピクセルの構造によってこれまでのCCDベースのカメラと比較してはるかに高いフレームレートで撮影することが可能です。(詳細については、イメージング を参照ください)。ClearViewはフルフレーム4k×4kの画像サイズで50フレーム毎秒(fps)の画像取得が可能であり、これは先代のOneView®カメラの2倍の取得速度です。ClearViewを用いて1枚の4k×4kピクセルの画像を取得すると、カメラは操作者が設定した総取得時間に達するまで50 fpsで各フレームを統合し、1枚の像として出力します。そのため、2秒間の露光では統合された100枚の画像が1枚の像として得られます。また異なるビニング設定や部分読み出しオプションを用いることで最大フレームレートは向上します。一般的に、1枚の像を取得するためにカメラが利用可能な最大フレームレートを使用するのが標準的な使用方法となります。

高いフレームレートで撮影を行うことはいくつかの点で有効です。まず、ライブ観察を行う像の更新が速くカメラで観察を行いながら視野探しを行ったり、電子顕微鏡のアライメント時に各種ウォブラ―を使用する場合において使い勝手が向上します。また、カメラのフレームレートが高いということはカメラの各画素の電荷の読み出しも非常に速いということであり、センサーの各ピクセルを飽和させることなく、より強い電子線の照射条件でカメラを使用することが可能です。1枚の像取得におけるライブドリフト補正では、複数の像を取得して位置合わせを行う必要があります。従って、高いフレームレートのカメラを使用しなければ高精度のライブドリフト補正は不可能ということになります。

高いフレームレートで像を取得することのデメリットのひとつは、最終的な像に含まれるノイズの量です。カメラの各フレームの読み出しプロセスにおいて、読み出しノイズとして知られる特定の量のノイズが各フレームに持ち込まれます。CMOSであれCCDであれ読み出しノイズは像に含まれます。ただカメラによって最終的な像に統合されるフレーム数が多ければ多いほど、読み出しノイズはデータにより多く含まれることになります。一般的にCMOSカメラはCCDカメラと比較して1フレーム当たりの読み出しノイズは抑えられていますが、統合されるフレーム数が非常に多いため最終的な像に含まれるトータルのノイズレベルは大きくなってしまいます。カメラへの信号量が多い条件下では、試料からの信号も多いためこのノイズは大きな問題とはならず最終的に得られる像では高いシグナル・ノイズ比を達成することが出来ます。しかしながら、回折図形を記録したり低電子線照射条件で電子線照射に弱い材料を観察するような場合など、カメラの信号量が全体的に弱い条件下では、最終的に積算された読み出しノイズが像質に悪影響を及ぼす可能性があります。

Metro® や K3® カメラのような直接検出型電子カウンティングカメラにも読み出しノイズは存在しますが、計数処理のアルゴリズムがこのノイズを効果的に除去しカメラの感度を劇的に向上させています。一方、ClearViewカメラやその他のシンチレータカメラにおいては、同様の計数処理のアルゴリズムを実装するのに十分なフレームレートを備えていないため、最終的な取得画像に統合される読み出しノイズの総量を最小限に抑える方法として、フレームレート制御モードがClearViewカメラのために開発されました。

ClearViewカメラを用いたフレームレート制御モードでの像取得

フレームレートの制御によって、ClearViewの使用者は画像の取得に用いるカメラのフレームレートを下げることが可能であり、最終的な像に統合される総フレーム数と読み出しノイズを抑えることが出来ます。このフレームレートの制御は、DigitalMicrographソフトウェアのCameraパレットの中から直接、簡単にOn/Offすることが可能です。ユーザーはカメラのフレームレートを選択した像の画素数に応じた最大値(例えば、4k×4kピクセルで50 fps、2k×2kピクセルで200 fps)と最小フレームレートである1/30 fpsとの間の任意の値に設定出来ます。フレームレート制御が有効な場合には、カメラは総露光時間に達するまで指定したフレームレートで複数のフレームを統合します。このようにフレームレートは像取得のためにユーザーが任意に設定可能となっています。フレームレート制御を使用して総露光時間を変えずにカメラのフレームレートを下げることで、像のシグナル・ノイズ比と共に低コントラストの試料の観察を大きく改善出来ます。


 
 

図2の例では、金ナノ粒子の標準試料から得られた回折図形を、フレームレート制御モードで様々なフレームレートを使用して同一の10秒の総露光時間を用いて2k×2kピクセルの解像度で取得しました。最大のフレームレートである200 fpsでは、回折図形中の多くのリングパターンを識別することが出来ています。しかしながら、回折図形の半径方向の強度分布を計算すると、合計2000フレームが統合されていることから像のバックグラウンドノイズが高いことが判ります。ここでカメラのフレームレートを100 fpsに下げると、回折図形では目に見えて、また半径方向の強度分布の両方でバックグラウンドノイズが減少していることが判ります。さらに50 fpsではバックグラウンドノイズはさらに減少し、より高い分解能の回折ピーク(半径方向の強度分布中に四角で示す部分)がノイズレベルを上回りより判りやすくなっています。

図3に示すように、フレームレート制御モードはTEM像観察にも有効です。この例では、FIBで作製した半導体試料を4k×4kピクセルの解像度で、50 fps、2秒の総露光時間で撮影しています。このような撮影条件では良好な結果が得られ、図示した領域を拡大すると視野内の様々な部分で微細な構造を確認することが出来ます。フレームレート制御モードを利用してフレームレートを1fpsに設定すると、同じ2秒の総露光時間でも像質はさらに向上します。黄色の四角で示した部分を比較すると、全く同一の照射条件で取得したにも関わらず1fpsの像ではより高いシグナル・ノイズ比によってコントラストは改善し、また薄い界面がより解像されていることが判ります。

TEM観察におけるフレームレート制御モードの利用

フレームレート制御モードは、像のシグナル・ノイズ比がカメラのフレームレートや撮影速度よりも重要な場合に最適な機能です。実際の観察においては、フレームレート制御モードは回折図形の取得、カメラに弱い信号量で露光を行って像を取得(例えば、電子線照射に敏感な試料の低電子線照射量観察や暗視野像観察)、あるいはその他の長時間露光(10秒以上)が必要となる観察において便利な機能です。

フレームレート制御モードでシグナル・ノイズ比を最適化するには、最終的な像に統合される読み出しノイズの合計を最小化し、かつ各フレームの信号を最大化する必要があります。これはフレームレートの設定を用いて個々のフレームの読み出しにおいてピクセルを飽和させることなく、出来るだけ遅いフレームレートを選択することで実現可能です。異なるフレームレートにおけるピクセルの強度の測定には、DigitalMicrographソフトウェア中の像のライブヒストグラムツールや所望の箇所の信号強度プロファイルツールを用いることが出来ます。ClearViewのユーザーマニュアルには、 フレームレート制御モードの像、および回折図形の取得のための設定方法の詳細が記載されています。回折実験や低電子線照射量観察においては、5~10 fps以下、総露光時間5秒以下を使用すると良好な結果が得られます。

まとめ

ClearViewのような高フレームレートのCMOSベースのカメラは、透過型電子顕微鏡法に多くの新たな観察手法をもたらします。しかしながら、高フレームレートの動作モードを使用してデータを取得することが常に最適とは限りません。 観察者はフレームレート制御モードを使用することで1枚の像を取得する際のカメラのフレームレートを下げることが可能であり、結果として最終的に統合された像の読み出しノイズを低減しClearViewカメラのセンサーの各ピクセルのダイナミックレンジをフレーム単位で最大化することが出来ます。フレームレート制御モードを用いてカメラと撮影条件を最適化することで、高いシグナル・ノイズ比の像が得られ、像と回折図形の双方で微弱な低コントラストの構造を識別する能力が向上します。