低電子線照射条件下におけるMoS2上のカーボンナノ粒子への凝集の観察

Gatan社製使用装置

K3® IS カメラはリアルタイム電子カウンティング、高速連続データ取得、広視野と共に低電子線照射量観察を実現します。

モデル 652 試料加熱ホルダーは、直径3 mmのTEM試料中における昇温下での微細構造や相変化、触媒、核成長、融解の過程を直接観察するために設計されています。

測定の背景

MoS2 には様々な用途が期待されていますが、ボイドやピットの生成が材料特性の決定において非常に重要な役割を果たしています。実際の合成においては、ピットの核生成と成長は自然付着炭素(大気に触れることで材料に存在する薄い炭素層)による影響を受けます。その場TEM観察法は、この自然付着炭素層やその高温でのふるまい、さらに MoSにおけるピットの生成に対する影響の研究に対して有効です。低電子線照射量、低加速電圧での連続像観察は、電子線照射による試料への影響を最小化しながらこれらの過程を観察するため、高分解能像観察法と共に用いることが可能です。

試料と観察方法

MoS2 試料は、電子線照射による損傷を抑えるために加速電圧 80 kV でTitan ETEMを使用して観察を行いました。試料はモデル652試料加熱ホルダーを用い試料は室温から 300 °C まで 10 °C/分 で昇温しました。K3 ISカメラを使用して昇温中のその場TEM観察のビデオを記録し、最終的に約 30 分間のビデオが生成されました。1ピクセルが 1 Å に相当する比較的広視野 (595 x 423 nm) のビデオを取得し、連続的に 20 個のカーボンナノ粒子の像を記録しました。優れた量子検出効率(DQE)を有し電子カウンティングモードでの記録が可能な K3 IS カメラは、僅か 8 e-2/s の照射電流密度での観察を実現し、電子線損傷によるダメージをさらに低減します。 8000 フレームを超える全ビデオに渡って、総照射電子線量は僅かに 13200 e-2 であり、その量は通常のTEM用カメラで得られた僅か数枚の原子分解能TEM像に相当します。例えば、参考文献[1]の図2cにあるOneViewカメラによる像は、0.32 秒の露光時間で結果的に 3200 e-2 となっています。

まとめ

K3 IS カメラ内部では 1500 フレーム毎秒でデータが取得され電子カウンティング処理が行われていますが、ストレージに保存されているオリジナルのビデオのフレームレートは 5 フレーム毎秒(fps)です。観察を開始してからの 11 分間は特に変化が無く処理は行っていませんが、残りのデータセットは 4913 フレームあり、各フレームは 5760 x 4092 ピクセルを有していることから総データサイズは 107 GBに達します。データ取得後、データは x4 のビニング処理を行った上でドリフト補正、切り取りを行い、さらに 10 枚のフレームを合算することで最終的なビデオデータを生成しています。結果として、492 フレーム、812 x 444 ピクセル、総データサイズが 790 MBのdm4フォーマットのデータが作成されました。Gatan Microscopy Suite® (GMS)をデータの処理に使用し、この処理済みのデータセットに対してmp4フォーマットのビデオを出力しました。そのデータサイズは僅か 93 MBです(データサイズとしては 99.9 % の圧縮を達成しています)。このビデオから得られたいくつかのフレームを図1に示しています。動画の完全版をご覧になりたい方は こちら をクリックしてください。

80 kV の加速電圧と K3 IS カメラによって実現される低電子線照射量での観察が、電子線照射による試料ダメージを比較的低く抑えた MoSのその場観察ビデオの取得を可能としました。Gatan社の試料加熱ホルダーを用いて試料を 300 °C まで加熱することで、自然付着炭素が凝集しカーボンナノ粒子となる観察を実現しました。GMSを用いて 100 GBを超えるデータを処理することで、先に紹介した 93 MB のmp4ビデオが得られました。データからはほとんどの粒子が 170~180 °C 付近から現れていることが判ります。Oガス雰囲気下での同一のTEM を用いた他のその場観察の結果からこれらの粒子が MoS中のピットの生成に関連していることが示されました[1]。

謝辞

Sangwook Park、Joonsuk Park、Taeho Roy Kim、Robert Sinclair、Xiaolin Zhengの各氏を含むスタンフォード大学のグループに御礼申し上げます。

参考文献


[1] Park, S. et al. Effect of Adventitious Carbon on Pit Formation of Monolayer MoS2. Adv. Mater. 2003020 (2020) doi:10.1002/adma.202003020.