電池およびエネルギー貯蔵技術

共通の課題

リチウムイオン電池のような現在のエネルギー貯蔵技術は、日々その応用分野を拡げています。エネルギー貯蔵技術の拡大によって、電力とエネルギー密度、クーロン効率、サイクル寿命、安全性、安定性といった鍵となる性能指標を向上する材料に対する要求が強まっています。

結晶構造や拡散速度、電子移動、あるいはその他の電気化学のダイナミクスのような基本的な特性にどのような影響を受けているかを理解することで、鍵となる性能指標を改善し研究者は新たな材料を開発することが出来ます。原子構造や組成分布のような物性のキャラクタリゼーションは、これらの構造と物性間の関係を明らかにする上での第一歩です。

革新をもたらす手法

エネルギー貯蔵材料に対して、構造と特性の重要な関係をより正しく評価し理解するために様々な手法を利用することが出来ます。

(電気)化学状態が変化する箇所における形状や結晶構造の変化を研究
 
4D STEMを適用し仮想絞りによる像観察や仮想電子線回折、結晶性材料のひずみマッピング
様々な刺激を与え、リアルタイムで相変化や元素分布の変化を観察

動的な現象や照射電子線に弱い材料に対する影響を抑えた観察を行うために、低電子線照射量観察の手法を利用
 
試料中のリチウムや酸素のような軽元素を検出し定量化
 
遷移金属のような重要な元素の酸化数を決定
 
原子スケールでの試料中の元素分布をマッピング
 
ナノメートルスケールの分解能で像中の元素と化学情報を強調、マッピング、そして定量化する像観察手法
 
その場観察や通常観察のいずれかと共に利用可能
試料作製
より大きなスケールで構造変化や組成変化を測定するための断面試料の作製
 
ダメージレスの試料表面を得るためのFIB断面試料の最終クリーニング
 
ナノメートルレベルで様々なコーティングを実施
試料の取り扱い
希ガス雰囲気下からSEM、またはTEMへ、制御された環境で試料を移動することで試料の状態を維持
 
取り扱い時に大気に触れることを嫌う材料の意図しない酸化や劣化を防止
 
クライオ温度での観察や分析によって電子線照射に弱い構造を保護、保持
試料中の元素を分析、定量、そしてマッピング
材料中の結晶方位と集合組織を測定 

関連するアプリケーションである、太陽光発電、ユーティリティ、環境技術 および 半導体材料とデバイス もご覧ください。

実現可能な観察結果

電子顕微鏡外でのキャラクタリゼーション

新たなエネルギー貯蔵材料の初期の研究の多くは、材料の初期状態と電子顕微鏡外で行う充電状態へのサイクル後の変化に対する材料特性のキャラクタリゼーションに注目してきました。電子顕微鏡法は、マイクロから原子スケールの空間分解能での像観察や分析手法です。

走査電子顕微鏡法(SEM)と透過電子顕微鏡法(TEM)による手法の選択は、試料の状態(例えば、バルク、粉体、ナノ材料など)と必要とする分析内容に依存します。

SEMによる一般的なキャラクタリゼーション:

  • 電極の広い面積の表面観察
  • 電極や電池セルの断面観察
  • EDSを用いた大面積の元素分析
  • EBSDを用いた断面試料の結晶構造と方位解析

EDSとEBSD関連の製品とアプリケーションに関しては、EDAX.com をご覧ください。

TEMによる一般的なキャラクタリゼーション:

  • 材料のナノメートルから原子スケールの像観察
  • 電子線回折(制限視野電子線回折、ディフラクショントモグラフィ、4D STEMなど)による結晶構造の決定
  • EDSとEELSを用いた組成分析
  • EELSを用いた各元素の化学状態分析
  • EFTEMを用いた元素と化学状態分布の像観察

その場観察によるキャラクタリゼーション 

エネルギー貯蔵材料は、化学的なエネルギーを電気的エネルギーへと繰り返し変換するために常に(電気)化学状態が変化する状態に置かれます。この動的なふるまいを理解することが高性能の材料を開発する上での鍵となります。この種の研究を電子顕微鏡内で行うには、試料の像観察や化学分析を行う際に同時に電気化学的な刺激を試料に与える、その場電子顕微鏡法が必要です。

エネルギー貯蔵材料に対するその場TEM観察には様々な手法が存在します。ほとんどの実験では、電池の負極や特定の半電池反応といったエネルギー貯蔵デバイスの個々の要素を選択して測定を行っています。実験の困難さからその場観察において液体電解質を用いることを諦めた単純化した実験を採用し、実際の電池の動作状態からは異なるものの動的な現象を観察しています。より複雑な実験には完全な液体電解質のセルをTEM内に持ち込むことを可能とする特別なTEM試料ホルダーを用いる必要があります。 

いずれの場合においても、基本的な観察の計画とセットアップに加えて現在のその場実験にはいくつかの乗り越える必要のあるハードルが存在します:

  • 試料への電子線照射損傷とその他の電子線に起因するアーティファクトを防ぐ低電子線照射条件での観察
  • 興味のある反応を適切に観察するために必要な空間分解能と時間分解能を有するデータの取得
  • 一回のその場実験中に生成される大容量のデータの管理(多くの場合、動画データとして数テラバイトに及ぶ)

Gatan社のその場観察のための製品のポートフォリオは、エネルギー貯蔵材料におけるその場観察に伴うあらゆる課題を明らかにし乗り越える上で研究者を手助けします。


Application: 強度差組成決定法を使用したリチウムの定量分析

 

Gatan’s OnPoint™ detector and EDAX’s Octane Elite Super EDS system were used in combination to determine the lithium concentration in a stoichiometric lithium oxide sample.

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Visit the OnPoint product page to find other examples of low-dose imaging via real-time electron counting.


Application: Imaging a lithium metal battery solid electrolyte interphase

 

Developing better batteries is critical for advancing a number of technologies for energy and the environment, and lithium (Li) metal is an attractive anode material based on its fundamental properties. One of the issues limiting the use of Li metal is the formation and instability of a solid electrolyte interphase (SEI). Therefore, understanding the exact structure and structural dynamics of the SEI in new battery designs is valuable. Here, we observe the SEI in a new electrolyte.

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Visit the K3 IS product page to find other examples of low-dose imaging via real-time electron counting.


アプリケーション例:NiS充填カーボンナノチューブにおける動的なリチウム化

電子線照射による影響を最小化することは、その場観察を用いたリチウム化の正確な研究を行う上で鍵となります。K3® IS 直接検出型カメラと共に低電子線照射モードを用いた観察によって、NiSを充填したカーボンナノチューブ中の動的なリチウム化の進行をビデオとして捉えることが可能です。高いクオリティのビデオデータを記録するために用いた照射電流密度は僅か2.1 e-2/s です。

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リアルタイム電子カウンティングを用いた低電子線照射量観察の他の例を K3 IS 製品ページから見る。 


アプリケーション例:二つの異なる時間軸に渡る電子線照射によるデンドライト結晶成長の観察

形態が素早く変化する試料の広視野観察がしばしば求められます。リチウム金属陽極中のデンドライト結晶成長を観察することは、この望ましくない現象を抑える方法を検討する上で必須です。下記の観察例では、Cuデンドライト上の電子線誘起デンドライト結晶成長の低電子線照射量観察を行っています。K3 ISカメラを用いて取得した像を抽出するために、様々な像解析と動画の解析を適用し成長速度を定量化しています。

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アプリケーション例:In-Situ EELSによるNCA電池電極材料における酸素活性の効果の測定

検出器の取得速度と感度の向上、そしてデータ処理技術の進化によって、組成や化学状態のその場分析が実現します。例として、温度安定性や昇温時のあらゆる変化が性能や安全性にどのように影響しているかを理解するために、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 (NCA) 電極試料を加熱しました。

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Gatan Microscopy Suite® (GMS)ソフトウェアで利用可能なその場観察データの取り扱いに関するツールの詳細についてはGatan YouTube チャンネル をご覧ください。

 

試料作製

電子顕微鏡を用いたあらゆる実験の成功は、適切な試料作製から始まります。材料の場合、最も最適な手法は目的とする分析手法(例えば、TEMとSEMによる分析)、試料の形態(例えば、粉体試料とコイン状電池のアセンブリ)、材料の安定性、その他さまざまな要因に依存します。試料作製において重要な事は、興味のある試料の実際の状態や形態を変化させるアーティファクトを導入することなく試料の切り出し、研磨、エッチングを行うことです。Gatanは、SEMとTEM試料を素早くそして試料作製過程におけるアーティファクトを最小にする ブロードイオンビームツールを専門に扱っています。

SEM試料作製

電極材料や類似の材料の表面分析は直接的であり、SEM内での観察中のチャージアップを防ぐために薄い導電層(薄いアモルファスカーボンや金属膜)を塗布する必要だけがあります。

電極や電池のアセンブリの内部構造に興味がある研究者は、断面試料作製が必要です。Gatanのブロードアルゴンイオンビームツールは集束イオンビーム(FIB)を用いた手法よりも広い面積の断面試料作製が可能であり、低コスト、短試料作製時間で簡単な試料作製手順で行うことが出来ます。

試料作製ツールとアプリケーション例にご興味のある方は Ilion® II 製品ページ をご覧ください。

TEM試料作製

もし興味のある材料が粉体であれば、アモルファスの支持膜(例えば、CやSiO2)を持つTEMグリッド上に単に分散するだけで試料作製が可能であり、それ以上の準備無しに薄い領域を観察することが出来ます。その他、加工場所を指定した試料やFIBを用いた断面試料が必要となる場合もあります。FIB後の最終プロセスにおいてPIPS™ ツールを利用することで、表面のコンタミネーション(FIBによる試料作製中にリデポジション)や酸化層を除去したりTEM分析のために清浄な試料表面を得ることが出来ます。


アプリケーション例:PIPS IIシステムを用いた集束イオンビーム作製試料のアルゴンイオンポリッシング

低エネルギーの集束ビーム(直径約1mm)、X,Yアライメントステージ、DigitalMicrographソフトウェアを利用した光学カメラ、安定したミリング、ミリング角のカスタマイを含むPIPS II システムの特長によって300eV以下でFIB試料を効率的に研磨することが可能となります。FIBによる試料作製の最終工程においてPIPS IIを用いることで、試料の質を向上し再付着した材料を除去します。

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試料の取り扱い

一般に、多くの電池材料とエネルギー貯蔵材料は大気への露出に対して敏感です。特にLi金属負極のようないくつかの材料は、初期状態において高い大気に対する反応性を示します。実験のワークフロー全体に対して、大気に触れずに試料を搬送する機能を組み込むことは非常に重要なステップであることが容易に予想できます。さらに、電子線が望まない試料の変化を引き起こし、あるいは分析中に試料を完全に破壊してしまうことから、電子顕微鏡内における材料の安定性も課題です。 Gatanからはそのような大気や電子線に対して敏感な試料の適切な取り扱いを助ける様々なツールがご利用頂けます。

大気に触れないSEM試料の搬送

ILoad™ システムは特別な試料搬送ポットと、Gatanの試料作製装置とSEM用のエアロックから構成されています。試料はグローブボックス中でトランスファーポットにセットされ、これによって試料はグローブボックスから安全に搬出することが可能となります。その際チャンバー内への大気の侵入を防ぐため、希ガス雰囲気の正圧に維持されています。トランスファーポットはPECS™ ツールとSEM用専用エアロックに接続することが出来ます。

 
TEM試料の大気非暴露トランスファー

ILoad システムは、PIPSツールとの組み合わせも可能であり、グローブボックスからPIPSまで同じく希ガス雰囲気下で搬送することが出来ます。試料作製後、試料をグローブボックス中に戻しModel 648試料ホルダーに試料を容易にセットすることが可能であり、真空、あるいは希ガス雰囲気下でTEMまで搬送することが出来ます。

TEM試料のクライオトランスファー

電子線照射に対して敏感な材料の研究において一般的な手法となって来ているのが、クライオ温度まで温度を下げるためにクライオトランスファーホルダーを用いて観察を行うことです。クライオトランスファーホルダーを用いることで、室温では発生してしまう望まない試料表面の反応を最小化し、電子ビームの照射下における試料の安定性を改善します。


アプリケーション例:低電子線照射条件下でのクライオ電子顕微鏡法(cryo-EM)と電子カウンティング法による液相-固相界面における不連続に存在するイオンの観察

電極-電解液界面の構造とその変化を観察することは、電池構造の電気学的なふるまいと能力のキャラクタリゼーションに必須です。これは通常液体セルを用いた手法を用いて行われます。しかしながら、その構造を維持するために電子線の照射に弱い試料を凍結することが一般的なクライオEMを用いる手法が提案されています。下記に示す例では、金ナノロッドの液相-固相界面を観察するためにこれらの手法を組み合わせています。この実験手法はエネルギー貯蔵材料に対しても広く適用可能です。

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